舞台スタッフ・ラボ2019発展コース『よみ芝居みちのく怪談』の音響効果の紹介
朗読の舞台音響
2019年9月8日に、舞台スタッフ・ラボxみやぶん演劇學校『よみ芝居 みちのく怪談』の公演がありました。舞台スタッフの講座「舞台スタッフ・ラボ」の成果発表の意味合いもある公演で、主催側からもお許しを頂けたので、レポートしたいと思います。
作品について
作品の構成と演出は、黒色綺譚カナリア派・コマイぬの芝原弘さんがお務めになりました。この作品を形を変えながら継続的に上演しておられる演出家・俳優です。石巻、東京をはじめ、あちこちで上演しておられます。出演なさったのは、今回は、みやぶん演劇學校を終了なさった方々でした。プロフェッショナルではない、一般市民の5人の方々です。加えて、ギタリストの横山大地さんと、演出の芝原さんも出演なさいました。公演のスタッフワークは、舞台監督部(演出部)、音響、照明、制作を、「舞台スタッフ・ラボ」の受講生と講師が担当しました。本儀は音響の講師を承りまして、公演ではプランと、マイクのオペレートを担当しました。
大枠の音響プラン
音響効果担当として、まず演出家と一緒にした判断は、読む出演者全員にワイヤレスラベリアマイクを付けて頂くこと、でした。専門的に長期間の訓練を受けたわけではない方々に、200人クラスの劇場に出演して頂くにあたって、喉への負担を考えてと、声量を出すために頑張りすぎずに演技に注力できるようにするためでもありました。このために、稽古にラベリアマイクと送信機を貸し出し、所作に影響のない装着位置を探って頂いたり、重みや、触ったりぶつけたりしないこと、などに慣れて頂いたりしました。
また、効果音として、携帯電話が鳴る、海鳴りがする、もののけの語りの背後に怪しげな音、と、音楽として、シーンの大きな継ぎ目でのギターの演奏、そして最後のギターと歌、というのは演出家からご提案を頂いていました。講座の期間が長ければ、プランをゼロから受講生とたてる、ということも考えられたのですが、今回は、演出家に具体的にご提示頂いたものについて、選択肢を挙げ、肉付けをし、音を作ってブラッシュアップをするにとどめました。プランを広げるよりも、個々の音を良くし、受講生には本番のオペレートをして頂くことに注力しました。
音響効果全般として心掛けたのは、以下のようなことです。
- 声が、発話者の位置付近からなるべく自然に聴こえ、かつ明瞭に聞き取れること
- 意味合いとして、せりふの背景になる音、前景になる音を、音量・音像としても、そのように出し、行き来のある音はスムースに行うこと
- 生演奏のギターが、せりふの背景的になるときと他のSEと絡むときはしっかり背景的に馴染み、独奏の時には前景としてしっかり際立つこと、の行き来。
技術面と仕込み
音響の、出力系のチューニングは、会場の移動用ミキサー、YAMAHA LS9ですべて行いました。グラフィックイコライザとディレイがあるとたいへん良いですね。スピーカーの特性、設置位置、幕越しになる、一番奥のスピーカーよりも客席に近い、等の条件に応じて、イコライザやディレイで補正をかけました。
場あたり、テクニカルリハーサルの際の、出演者ごとのワイヤレスマイクのチューニングは、出演者の声の個性と衣装の違いによるピンマイクの取り付け位置の差とに注意しつつ行いました。
ギターは、アクティブなピックアップの入ったいわゆるエレアコでした。音の取り方は、そのピックアップの音をラインで、という選択肢もありましたが、マイクアレンジによる音の違いを体験するというのも講座として良いように思い、マイクにしました。
仕込みは、受講生の皆さんに体験して頂く部分と、講座の時間等の都合で、講師側で行う部分とがありました。
音響の仕込みは、実際の舞台の仕込みのように、各部署で協調しながら行えました。
仕込み図と解説
仕込みの前には、図面が要ります。音響仕込み図です。条件の範囲内で、思い描いたことを実現できるように、考え(いつものことではあります)まして、描いた図面です。下に掲載しました。
音がせりふの背景になったり前景になったりするので、舞台奥側(「ホリ裏」「奥袖」)と客席側(「前」「プロセ」)とにそれぞれスピーカーがあります。プロセLCRのみ上空、他は床面にスタンドです。「ケイタイ」は、劇中で電話が鳴る位置が下手の一番客席側の袖幕の前でしたので、その位置付近から電話の効果音が鳴らせるように、幕の裏に小型のスピーカーを、電話の鳴る付近の高さに合わせて配置しています。
せりふのある皆さんに付けていただいたピンマイクは、劇場のものと持ち込みとの混成です。高音がよくとれるものを高音の方に付けていただきました。ギターの横山さんには、ギターにAKG C451B、声にSennheiser e845(前掲の写真にあります)。
再生系の持ち込みが二組になっているのは、バックアップです。一つのコントローラでメインとサブの二つの再生機器を同じように動かしておき、メインの調子がおかしくなったら切り替えられるようにしてあります(幸いにして、本番でそういうことが起きたことはありませんが。)。
最後に
「舞台スタッフ・ラボ」は、エル・パーク仙台で行われていた「舞台技術養成講座」から、せんだい演劇工房10-BOXでの「演劇道場」を経て連綿と続いている、仙台の舞台スタッフ講座です。私も学生時代に受講したことがあります。舞台芸術を支える裏方を育成する貴重な事業で、今後もお声がけいただける限りお力添えしていきたいと思っています。