KIWI SOUND WORKS logo
言言 第5回公演『東京裁判』の音響効果と、せんだい演劇工房10-BOX box-1の防音

音を消す音響効果
言言 第5回公演『東京裁判』の音響効果(2019/6/1)

 仙台の演劇プロデュースユニット、言言[ことこと]の第五回公演が、2019年5月24日(金)-26日(日)に、せんだい演劇工房10-BOX box-1でありました。この作品の音響効果を担当したのですが、ちょっと面白い大仕事になりました。

 と言っても、すごく効果音を作ったとか選曲をしたとかではありません。むしろ逆で、効果音は無し。エンディングの一曲は音楽の方にお任せ。開演から、最後の溶暗まで、スピーカーから再生した音は一切ありません。俳優の声を拡声していたわけでもありません。予備知識なしに僕の仕事に気づいたお客様は、ほとんどおられなかったのではないかと思います。

リハーサル時の写真1
言言 第5回公演『東京裁判』より

 では何をしたのか。それは、「環境の音づくり」です。 地味ですが、一つには外来音と設備音の遮音、一つには会場の不要な響きの吸音、そして最後に、ほんのりと作品に合った響きの付加をしました。

 まず、会場の舞台背後の搬入出用扉を吸音材とコンパネのパネルで塞ぎ、次に、騒々しい調光ユニットとアンプ類は吸音材と遮音シートで防音しました。

防音パネルの仕込まれた図
大扉をふさいでいる防音パネル(3.6m x 3.6m)。扉側には吸音材がついています。
調光ユニットが遮音材で覆われた図
 覆われた調光ユニット。冷却には支障のないようになっています。

 舞台の周囲に幕を吊ろう、と言い出したのも音響です。会場の響きが、大きい上に気になるフラッターエコーで、この作品には余計なものでした。幕を吊った上で、客席そばの壁と幕の間には吸音材を入れて、さらに残響を抑えています。ここまでで、いつものbox-1より15-20dBほど静かになっています。

 そこまででも悪くはなかったのですが、せっかく小さい音も効く環境ができたので、作品に合った残響を足しました。広い法廷の、やりすぎにならない響きを目指して、マイクで声を拾ってリバーブマシンで残響音だけを出しました。残響の返りを遅めにして、台詞の聞きやすさの邪魔にならないようにもしました。
「世界の中に彼ら5人だけ。余計な音を極力排し、他の人物の言葉も聴こえず、外へ向けた大きな声だけが響く」、という空想図に向けて、全力を傾けました

 出演者各位には、「いつもより静かですごくよかった」「響きで自分の声の具合が変わるのは面白い体験だった」と好評でした。また、お客様の反応としては「引き込まれた」「集中して見られた」というものが多く、中には「外に出たらにぎやかで驚いた」とおっしゃる方もおられました。

 音を鳴らすだけが音響効果の仕事ではありません。安全と責任の範囲内で、工夫してなんでもして良いのです。今回はうまく効果を上げて、胸をなでおろしました。

※防音の資材をお貸しできます。ご用命、ご相談は、キーウィ サウンドワークスへどうぞ。

レポート 言言 第5回公演『東京裁判』の音響効果
せんだい演劇工房10-BOX box-1の防音

 仙台の演劇プロデュースユニット、言言[ことこと]の第五回公演が、2019年5月24日(金)-26日(日)に、せんだい演劇工房10-BOXでありました。その音響効果を担当するにあたり、初めて手掛けた防音と、また、何もしていないかのような舞台音響だったけれど、何をしていたのか、との記録です。

公演概要

公演のフライヤー

言言 第五回公演
『東京裁判』
作 野木萌葱 演出 飯沼由和
2019年5月24日(金)-26日(日)全5回公演
会場 せんだい演劇工房10-BOX box-1

1946年、東京、市ヶ谷。
極東国際軍事裁判所、法廷内、主任弁護人席。
彼らはたった5人で世界に立ち向かった。
それぞれの過去と向き合い、葛藤し、それでも自身の信念に従いながら。
「こんな小さい島国なのに、世界中が敵だったんだな。」
紡ぎ出す言葉、それだけが武器だった。

出演
戸石みつる(SENDAI座☆プロジェクト)
樋渡宏嗣(SENDAI座☆プロジェクト)
原西忠佑
山澤和幸
飯沼由和

スタッフ
作 野木萌葱
演出 飯沼由和
音楽 猪狩太志(ambitious music)
照明 神﨑祐輝(劇団 短距離男道ミサイル)
音響 本儀拓(キーウィサウンドワークス)
小道具 髙橋舞(趣味屋こめたろう.)
舞台監督 わたなべひでお
制作 佐々木一美
広報協力 boxes Inc.
協力 一般社団法人 SENDAI 座プロジェクト
助成 公益財団法人 仙台市市民文化事業団
主催 言言

言言 https://unit-kotokoto.wixsite.com/kotokoto
“言言 第五回公演 『東京裁判』” | 仙台演劇カレンダー sencale.com/?p=10914


音響プラン概要

 音響効果は、「特に言葉が大切な法廷劇の、すごい情報量の台詞を、いかに集中して聴いて頂くか」に注力しました。舞台上の演技はもちろん俳優陣と演出の賜物ですが、一助となるべく、大きく4つのことをしました。

再生音は、エンディングの一曲のみ。スピーカーは、EV Sx300 x5台、Sb122 x2台を使っています。

手法と解説

公演の音響仕込み図
音響仕込み図。このテンプレートを使っています。

舞台奥の大きな扉を吸音材とコンパネのパネル(3,600 x 3,600)で塞ぎます。
大きなものの搬入出に使う鉄の扉で、開けるとすぐに駐車場です。ここから一番音が入ってくるのが、過去にこの劇場で行われた公演でも気になっていたので、まずふさぐことにしました。
舞台下手(向かって左)の大きな扉を吸音材と劇場のパーティションパネルで塞ぎます。
こちらも開けるとすぐ外です。細い道から10mも離れておらず、大きな車はめったに通らないものの、気にはなるのでふさぐことにしました。吸音材をベニヤに張ったものを入れます。
主な騒音源の調光ユニットとアンプ類を吸音材と遮音シートで防音します。
客席背後の中二階で、主にファンの作動音をずっとたてている調光ユニットを、吸音材と遮音シートで二重三重に覆いました。これも、過去の公演でかなり気になっていた箇所です。無音のシーンになると背後から「ぶおー」という音が聴こえるのが常態でしたので。
東西と大黒の幕を吊ります。
当初、幕無しの裸の劇場で上演の予定でしたが、音響効果のために幕を吊る提案をし、採用されました。会場の響きが、大きい上に気になるフラッターエコーで、返りが早すぎて言葉が聞き取りづらい、この作品には余計な残響でした。幕を吊ることで、これを軽減します。
客席そばの壁には吸音材を立てます。
幕を吊ってもまだ若干残響が気になったので、吸音材をベニヤに張ったものを立てます。
マイクで収音してリバーブだけを出力します。
響き無しでも悪くはなかったのですが、せっかく静かにもしますし、広い法廷の中にポツンと居るイメージだったので、判事や検察に対しての大きい声の台詞は、残響が聞こえるようにしています。box-1より広い法廷(市ヶ谷の大講堂。移設されて市ヶ谷記念館になっています。資料の写真が、広さの感覚や内装の雰囲気を知るのに大変助けになりました。)の、やりすぎにならない響きを目指して、バウンダリマイクで拾ってリバーブをつけています。残響の返りを遅めにして、台詞の聞き取りの邪魔にならないようにしています。

準備の様子

まだ梱包されている資材
1. 防音資材。グラスウールの吸音材と、遮音シートです。他に、コンパネと薄ベニヤを用意しました。
資材を開封しているところ
2. グラスウールが意外と小さい包みだな、と思ったら、開封したらすごく膨らみまして、笑ってしまいました。かなり圧密された状態で配送されているのですね。合理的です。
パックされたグラスウール吸音材を遮音シートに貼り付けている作業図
3. 吸音材は、セットとなる遮音材(ここでは、遮音シートやコンパネ)に貼り付けました。防音効果を増すとともに、持ち運びも便利に。遮音材のビニール袋の強度を考えると、今後、布などで覆いたいところです。
コンパネに貼り付けられた吸音材が複数重なっている
4. コンパネに貼り付けられた吸音材。接着剤を使ったので、固まるまで積み重ねて重しにしています。ここまでは、仕込み日前に準備をしました。たたき、と言えるかもしれません。板の左手1/5ほどの吸音材の無い部分は、パネルを立てるときに吸音材を追加して埋めました。
防音パネルの仕込まれたところ
5. 仕込み日。コンパネを組んで、扉の前に立てたところ。扉より大きく作って、ぐっと押し付けました。これがあると、高いところでの作業用の台車が出入りできないので、どのタイミングでどうするかは、舞台監督さんと詰めました。
調光ユニットを覆ったところ
6. 二組ある調光ユニットの一つを吸音材と遮音材で覆ったところ。排熱がある機材なので、劇場職員さん立会いの下、温度計をチェックしながら作業をしました。ご協力ありがとうございました。
2つ目の調光ユニットを覆ったところ
7. 二組ある調光ユニットのもう一つを吸音材と遮音材で覆ったところ。吸音材に対して遮音材が足りなくなってきて、吸音材がはみ出ています。
幕と壁の間に、吸音材が入っているところ
8. 東西幕の裏に吸音材を入れてあるところ。会場の響きを軽減します。
幕のそばの床に小型の置きマイクが仕込まれている図
9. 舞台奥のバウンダリマイク。床置き式のマイクで、これで俳優の声を拾って、リバーブマシン(今回はミキサー、YAMAHA 01V96i内蔵のものを使用)で電気的に残響を付加し、スピーカーから出します。全員にワイヤレスマイク、でも良かったのですが、オフマイクで空間を経てある程度ならされた音の方が向いていること、電池や電波他管理の手間がなく安定していて調整に注力できること、等から置きマイクを取りました。

本番時の運用と結果

 扉と機材の防音処理の結果、空調の無い状態でいつものbox-1より10~15dBほど静かになりました。

 声の残響は、吊りスピーカー及び奥のLRのスピーカーを主に使い、自然な広がり感を実現するように努めました。本番中は、この残響のマイクオペレートをしていました。響かせ過ぎてはそちらが気になって興をそぎますし、全く聞こえないのでは意味がありません。マイクの入力はコンプレッサで押さえましたが、場面や台詞ごとに選択的に響きの量を増減していたので、結局手作業が頼みです。

 会場は真っ黒い建物で、外装が鋼板で、壁一枚隔ててすぐに劇場内で、さらに仙台の梅雨前の暑くなる時期で、とあって大変暑くなりやすく、特に昼の回については冷房が必須でした。舞台監督さんの工夫により、「開場中つけていて開演直前に消し、俳優の音圧が高くなる終盤で再び入れる」「開場中からずっとつけていて、温度が終演まで上がり続けても支障なく観られるであろう時間の、きりのいいあたりで切る」など、様々なパターンでつけ消しし、「快適に観られて、しかも極力静かな環境」を維持する努力がなされました。

 普段は100分の作品を5回公演すると、10回くらいは気になる車の通過音も、3回くらいしか気にならず、それも低音しか聞こえないことで、かなり度合いが軽減されていました。また、同じ空調を入れた状態の比較でも、普段よりは今回の方がずっと静かでした。

 最後の音楽は、最後の台詞が終わり、間をとって溶暗し、さらに間をとって流れるもので、その時間の主役になってもよく、奥のセンターのスピーカーもしっかり使い、音像は上に広がりすぎないようにし、低音までしっかり鳴らしました。

 出演者各位には、「いつもより静かですごくよかった」「同じ会場なはずなのに、響きで自分の声の具合が変わるのは、面白い体験だった」と好評でした。また、お客様の反応としては「引き込まれた」「集中して見られた」というものが多く、中には「外に出たらにぎやかで驚いた」とおっしゃる方もおられました。

今後の課題

 いずれも、今回のものに加えてのもう少しの作業で実現できそうです。

 仙台での演劇やダンスの舞台音響、音響効果は、どうぞキーウィ サウンドワークスへ。ご依頼をお待ちしております。

Twitter上で頂戴した反応

なぜこんな音響なのか
解説の、さらに後記(7/8掲載)

 演劇作品の音響効果を担当する、となると、僕は、(あれば)台本を読み、稽古に行きます。出演者の声を聴き、できつつある雰囲気を感じます。作品がどちらを向いているのか、何を重視しているのか、演出家や他のスタッフと話し合ったりします。そして音響プランを考えます。この作品の音はどうあるとよいのか。音でこの作品の力になれることは何か。

 この作品の稽古を拝見して、僕には、沈黙の時間がとても濃密に感じられ、大事にしたくなりました。特に、最後の台詞の前のさまざまな思いの渦巻く間[ま]は、最高の無音で過ごしたい(過ごさせてさしあげたい)、と感じました。

 公演の会場のせんだい演劇工房10-BOX box-1は、そもそもは稽古場として建設された劇場で、遮音や機材の騒音への対策は、残念ながら万全とは言い難いです。劇場のそばを通るトラック(倉庫街なので大型トラックもよく通ります。)や、調光ユニットやパワーアンプといった機材群が、絶えず現実に引き戻そうと声を上げています。

 そうしたさまざまな声を、音を、味方に付けられる種類の作品ももちろんあります。味方につけないまでも、気にならない作品も(気にならない作品であっても、静かにできるにこしたことはない、とも思いつつ)。しかし、この作品はそうではない、ということが、稽古を見、演出家と話をして、はっきりしました。演出空間に立ち上げるものが表層的には虚構だからこそ、不要な嘘をなるべく減らしたい。鑑賞時に強いられる負荷や無理は少ない方が良い作品です。「場内を静かにする」という方針はこうして決まりました。

 また、「ある程度響きがあった方が、東京裁判の法廷らしいのではないか」という演出家の言葉があり、響きの面で現実的な「らしさ」を求めるということならば、box-1の気になるフラッターエコーではなく、もっと適した響きを足せばなおよい、と、そうすることにしました。

リハーサル時の写真2
言言 第5回公演『東京裁判』より

 音響効果、と言えば、劇中にさまざまな音を流したり、音の道具を用意したりする、という印象もあると思います。この音楽はいつからいつまで、どんなふうに流すのか、どんな音質の効果音がどんな広がりでいつするのか、舞台外から聴こえる扉のノック音は何をどう叩いてもらうか、などです。確かに、僕も普段よくやっています。案を出し、作り、稽古で試し、試行錯誤して、良い形を探していきます。

 今回は、例えば、登場人物5人以外の足音や、法廷の扉の開閉、法廷の休憩中に進駐軍の車が通るなどの、音がしたらどうか、といったことは検討しました。が、これは、試しに出してみるまでもなく、無くて良い、ということになりました。また、音楽はエンディングの一曲だけ、というのは早い段階から演出方針として決まっていました。それが良い、と思っていたので、異は唱えませんでした。開場中のBGMは、あった方が、堅くなってご来場したお客様がいらしたら、ちょっと心身を緩めて頂けて良い、と思ったので、そう提言し、選曲しました。

 電気音響のシステムは、以上の、開場中のBGM、本編中の響き、エンディングの音楽、といった「やること」の、求める、前後左右上下の広がり感や存在感、つまり音像と、音圧から考えました。スピーカーは、まずは俳優の目線程度の高さあたりに一組。これは俳優たちの背後から出したかったので位置を舞台奥の幕の裏へ。リバーブに左右方向への広がりが欲しかったので、左右はめいっぱい距離を開けて、すると中央の音像感が乏しくなりそうでしたので中央にも置くことにしました。次に、もっと高い方向に広がりと、幕の表に出ているものが主に高域の音質上の理由でほしく一組。これは、前後方向は俳優と同一ライン上にしました。ぐいぐい前に出る必要のある音はない、と思ったからです。サブウーハーは、エンディングの音楽用です。低音は少し前に出ているくらいが迫力があって良いと、こうしてあります。

 マイクの種類と位置は、目立たなさ重視で決めました。オフ目の音を拾ってほしいのでピンマイクでなく。吊りマイクは、この劇場では格子状のバトンを照明さんと分け合ってケーブルを這わせなければならなず、ノイズと仕込みばらしの手間の面から今回は避けたいので、置きマイクに。奥のセンターにすると、椅子を引く音が大きく入りすぎるので、これを避けて、奥の左右にしてあります。スピーカーの近くですが、ハウリングするほど音量を出さないのと、マイクの感度の低い位置なこともあって問題ないでしょう。

 こうして、やることと仕込みが決まりました。

 舞台公演の音響を担当にするにあたって、公演の音のこと全般を引き受けても差し支えない、と、僕は思っています。お客様のために出す音、出演者のために出す音、スタッフのために出す音、いずれも電気音響に限る必要はありませんし、これらの他に、会場の音環境に気を配ること、不要な音を消すことも、作品のために、大いにやっていって良いのではないでしょうか。